夜中に部屋のチャイムが鳴った。正太が帰ってきたのかと思って、玄関の鍵を開けようとすると、雛子が
「兄ちゃんがカツアゲされて今警察が下に来ている!」と言う。
玄関に警察がいるのかと思ったら、雛子の同級生の女の子で、マンションの窓からその様子を見ていて、知らせに来てくれたらしい。
慌てて下に降りると、正太が3人の警察官に囲まれながら、誰かに電話をしていた。
警察に通報して下さった男性とか、他にも目撃者が事情を聞かれている。のは、後からわかったことで、沢山の人がいた。
正太にケガはないようだ。
ホッとしたら腹がたった。わたしは(後から聞いたら、本部の警察官と電話をしている途中だったらしいが)のん気に電話をしている姿をみて、正太を蹴ったりどついたり大声を出してしまったので「夜中なので静かにして下さい」と、警察官に叱られた。
どうも正太を狙ってつけてきた若い男性二人組に「金を出せ」と脅されて小突かれたらしい。
『誰か助けてー』
ととっさに正太が叫んだので、その声を聞いたマンションの南側の住人が、窓を開けてベランダに出た。犯人は慌てて逃げたらしい。雛子も、その声でのぞいたので、チャイムが、鳴った時には事情を知っていたのだ。
犯人は近くの者ではない。マンションの南の坂は駐車場だが、夜中でもマンションの住人が良く通るので怖いと思ったことはない。わたしも劇団の帰りにいつもその坂を通るようにしている。
わたしはあまりの顛末に
「この子が友達とふざけたんじゃないんですか?」と、息子の自作自演を疑った。友達二人がマンションに迎えにきて、それから遊びに行ったのを、思い出したのだ。
「いえ、ちゃんと目撃者がいますから」と、言われた。
本部からも応援が駆けつけ、警察官は総勢5人はいたと思う。
「あのう、学校にばれたら息子は退学になったりしませんか?」
「いえ、被害者ですから大丈夫です」
「でも夜中にウロウロしていた息子も悪いのですから、何もなかったことにはなりませんか?」と言いながら正太の手を引いて部屋に戻ろうとしたら
「いえ、またこういう事件があっては困りますから、それはやめてください」と、叱られた。
わたしは20分ばかりで、なんとか少し冷静になり雛子に連れられて部屋に戻った。
その間2回ほど警察官が二人組で部屋に訪ねてきて、未成年なので調書をとってもよいか?とか、もう、夜中1時を回っているので、後日警察にきてもらって、調書を作成したいとか、言っていた。
「この前も息子は、モールで自転車を盗まれたと言ってそちらに伺いました。すみません」と、わたしは謝った。買ったばかりの自転車を鍵もしないで置いておいて盗まれ、警察にかけこんだらしい。その時も「警察ですが、自転車の登録番号を教えて欲しい」と電話があった。
2時間も大勢の警察官に囲まれてあれこれ聞かれて帰ってきた息子は
「なんでこう、不幸体質なんだ」
とぼやいた。
ちょっと前も車に自転車でぶつかって、車の上で一回転して、自転車は大破したのに、その時も本人は無傷だったのだ。
この月たまたま新しく買った自転車が、壊され次は盗まれ、結局ひと月で3台自転車を買わされるはめになった。わざとかと思うよ。
不幸の電話を年に何度もとる、わたしの身にもなって欲しい。その度に頭がポカーンとする。
不幸なのか運が良いのかわからないが、自業自得であることは確かだ!