ダリンがいなくなったのは、正太が三つの時だった。ダリンは何処かへ行った。ダリンが何処かへ行ったのは、月の出ていない夜中だった。床の上で草鞋をはいて、黒い頭巾をかぶって、勝手口から出ていった。ダリンはそれきり帰ってこなかった。
こんな出だしではじまる、夏目漱石の「夢十夜」のなかの、九夜。B4のコピー用紙一枚分の文章。
100回ほどよんで、はじめてわかったことがあって、一つわかるとそれをきっかけに、いろんなことがわかって、そして、なんてムダのない文章なんだろうと、感心したのでした。
普通はそう何回も、記憶するほど文章を読まないけれど、役者はおぼえるのが仕事です。おぼえて声にだし、動いてみて、相手とのかけあいがあり、色々なアプローチから役の気持ちをじょじょにわかることもできるけど
朗読はひとりでただ読む。読む。読む。
朗読のほうが難しいっていう意味が、少しわかったかもしれません。